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Friday, March 21, 2008

OP/人間的な時間

「じゃあ、はじめようか」とボスがいった。
それはミーティングのおわりの合図である。ミーティングの時間は終わり、仕事の時間がはじまる合図だ。
僕たちは昨日仕事を終えてから今までの間に届いたメールに目を通す。それらはほとんどクライアントからのメールだ。仕事用のメールアドレスは友達には教えていないので、このメールアドレスに友達からのメールが届くことはない。メールを読みながらそれぞれのメールの内容によって重要度を付けていく。重要度の区分は大、中、小であり、重要度の基準は工数とスケジュールに対する影響度である。大は今後の工数とスケジュールに重大なインパクトを与えるもの。小は影響度の低いものだ。
メールの内容によって、すぐに返事ができるものもあれば、何らかの調査を実施したあとでなければ返事ができないものもある。

僕たちはどのようなメールであっても、午前中は返事を出さないことにしている。理由は簡単である。それほど緊急性の高い用件であるのなら、メールではなく直接電話がかかってくる。メールをくれる人の頭の中には、メールを出した相手がメールを読んで返信するまでの間に時差があるということが、前提条件としてちゃんとセットされている。もちろんメールを出した側としては、返信は早くもらった方が良いと思っているのだが、たとえ返事がくるのが少々遅くなっても大きな問題にはならないと思っている。大きな問題になりそうなほどメールの返事が来るのが遅い場合には、直接電話をかければいいのだ。メールを出す人には、そのメールを読む人の姿は見えない。メールを出した人に出来ることは、返事が返ってくるのを待てる範囲内で待つことだけである。相手の出方を待つことも仕事のうちである。

これはボスが教えてくれたことだ。
「メールの返事は昼メシを食べた後に出せ。午前中は情報整理に集中しろ。メールを待っている相手も同じ時間軸で生きているんだ。相手も朝は情報整理に追われている。そんな時にこちらから良かれと思って新しい情報を増やしたら、相手の心の負担が重くなるだろう?心の負担が重くなると情報整理の質が落ちる。情報整理の質が落ちると、その日一日の相手の判断が狂う確率が高くなる。こちらも相手も同じ人間なんだ。メールはコンピュータを使って作成し、ネットワークを経由して相手に届く。だが、だからといって人間的な時間を無視しちゃ駄目だ」

いつかの朝のミーティングでボスがいっていた言葉を、僕は思い出した。
その時、「人間的な時間を無視しちゃ駄目だ」という言葉を聞いて、僕は、なかなかいいこというじゃないかと思った。コンピュータを使って仕事をしていると、いつの間にか人間的な時間を忘れて、コンピュータ的な時間で仕事をしてしまう。コンピュータは二十四時間仕事をしてもぜんぜん疲れない。無限にループするプログラムを作って走らせれば、誰かがコンセントを抜くか、計算結果を格納するエリアが一杯にならない限り永遠に計算をし続ける。でも僕たちは人間だ。人間はそんな風に仕事をすると、どこかがおかしくなってしまう。それは身体的なものであるかもしれないし、精神的なものであるかもしれない。

予定されたスケジュール通りに仕事を進めることができないために、何とか予定に間に合わせようとして睡眠時間を削ってまで仕事をしている状況になってしまうこともある。けれどもそれは本来やってはならないことだ。何らかの原因でスケジュールが遅れるという問題が発生している場合の解決方法として、遅れているスケジュールを守るために、誰かが人間的な時間を削って犠牲となることはけっして良い方法ではない。むしろ誰かが人間的な時間を削って犠牲となった結果、より多くの問題が発生することになることもあるだろうし、最終的に犠牲となった人間が壊れてしまうこともある。それはプロジェクトのあるべき姿からかけはなれたものだ。プロジェクトをそんな風に失敗に導くのはプロジェクトの推進役であるPM(プロジェクト・マネージャー)のプロジェクト・マネジメントのやり方が間違っていることを意味している。けれども往々にしてPMが間違った方法を取ってしまう場合がある。理由は人間的な時間について理解していないことにある。PMも人間である。けれどもPM自身が自分が人間であることを忘れて、稼働率と利益率しか頭の中にない機械になってしまったら、その下で仕事をするメンバーにそれぞれの人間的な時間があることに気が付かなくなってしまう。人間的な時間を忘れたPMは、PM(プロジェクト・マネージャー)ではなく、単なるPM(プロジェクト・マシン)なのである。そうして失うものはとても大きい。

僕はパソコンの中のWBS(スケジュール表)を見た。
今のところみんな週に一度は飲みにいっている。週に一度?いやいや二日に一度は飲みにいっている。これは僕にとってプロジェクトが正しい形で進んでいるかどうかのひとつの判断基準だ。メンバーが仲良く飲みに行くことができないようなプロジェクトは何かが間違っている。それはコミュニケーションの問題であるかもしれないし、最初に立てたプランがそもそも間違っているのかもしれない。
幸い僕たちは日々愉しく仕事をしている。
とりあえず<三匹のカエル作戦>は順調に進んでいるということである。

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