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Friday, March 14, 2008

OP/夢で見た風景

いつでも夢を見る。僕は朝起きた瞬間に、その夢をノートに記録することにしている。起きたばかりなので、頭の中はまだ半分夢の中にいる。そのまま寝てしまうことも多い。でもそのまま寝てしまうと夢の記憶はたいてい失われている。だからできるかぎり、朝最初に起きた瞬間に無理やり机に座り、半分しか開かない瞼の重みと戦いながら、お気に入りのペンで白いノートに夢の記録をつけることにしている。
それが何の役にたつのか?と問われると、僕にもうまく説明することはできない。ただ夢の中の風景というのは日常的に良く見る風景であることもあれば、未知の風景であることもある。そうした夢で見た風景を手繰り寄せ自分の言葉でノートに記録していくことによって、ある種の表現力を養うことができるのではないかと思っている。絵が描ける人はきっと夢で見た風景を描きたいと思うのだろう。僕は夢で見た風景を言葉で表したいと思う。

たとえば今朝見た夢は、こんな夢だ。
僕は仕事で中国に来ている。いつも持っているノートパソコンが入った大きな黒いビジネス・バッグを肩にかけて、僕は中国の小さな村の路地裏をテクテク歩いている。僕は頭の中でおなかがすいたなあと考えている。するとそこに小さな男の子が現れて、僕に向かってオイデオイデをする。僕は男の子の後についていく。男の子はいくつかの角を曲がり、路地を抜ける、そして一軒の小さな料理屋に入っていく。僕も男の子の後について店の中に入る。店の主人であるらしい女性が僕の顔を見てニコリと微笑む。男の子の頭をよしよしとなでている。僕は彼女の笑顔がとても素敵な笑顔だなあと思う。僕がテーブルに座ると、何も言わないのにその女性が料理を運んできてくれる。牛肉とピーマンの炒め物、白身魚のフライ、卵のスープ、白いごはん。僕はその料理を一口食べる。とてもおいしいと思う。僕はおいしいというかわりに女性と同じように微笑んでみる。女性は僕のうれしそうな顔を見て、またニコリと微笑む。女性は一冊の本をどこからか持ってくる。それは小さな男の子が書いた詩集である。女性はその詩を朗読する。僕はおいしい料理を食べながら、詩の中のコトバがひつひとつとても無垢であることに気が付く。僕はいつの日かそのコトバを紡ぎだしている身体が日常という良いもの、悪いもの、綺麗なもの、汚いものが雑多に交じり合った世界で暮らすうちに、無垢なコトバ以外のものを作り出すようになっていくのだろうなと思う。僕はそんなことを考えながらおいしい料理をモグモグ食べる。僕はおいしいという気持ちを表すために、また微笑もうとする。けれども目からは自然に涙があふれてくる。女性が僕のテーブルのそばまでやってきて、僕の頭をよしよしとなでてくれる。
僕は涙が止まらなくなってとても困った気持ちになってしまう。
今朝見た夢は、こんな夢だった。

僕は今朝見た夢のことを考えながらオフィスに向かった。この夢は何を意味しているのだろうか?その意味しているものを知りたいという気持ちが半分、知りたくないという気持ちが半分ある。昨日の午後休暇を取ったおかげで身体がちょっと軽くなっている。ミワコさんの施術のおかげだ。身体の中の異形のモノたちがすっかりおとなしくなっているのがわかる。武装解除だ。そう、僕の身体の上で戦争を行う理由なんて何一つない。しばらくは平和な日々を送るといいのだ。

ワンルームのオフィスに入ると、すでにみんなが集まっていた。
そういえば今日は水曜日だった。水曜日の朝はミーティングの時間なのだ。小さなオフィスなのでいつでも誰かと誰かがミーティングをしているようなものなのだが、ボスはこの水曜日の朝のミーティングになぜだかこだわっている。
「おう、やっと来たな。もう身体は大丈夫か?」
とボスが僕の顔を見ていう。
「おかげさまで。昨日はありがとう」
「じゃあ、さっそくはじめよう。今あるイシューについて整理しときたいんだが、マイカの話から聞いたらいいのかな」
マイカがコクリとうなずく。
「一番の問題は今の時期になってもクライアントの中での意見がまとまっていないこと。そもそも誰も意見を持っていないこと。またこちらから提案として意見を提示しても、その意見について考える判断基準を持った人が誰もいないから、提案自体が宙に浮いて時間ばかりを浪費してしまうこと」
マイカが話しながら壁にかかったホワイトボードに登場人物を列記していく。マイカが担当しているファンクションの仕様を決めることができる人々だ。
ケイジがホワイトボードに描かれた人々の絵を見て笑う。
「マイカは本当に絵が上手だね」
「でしょう。本当は画家になりたかったのよ」
「画家というよりは漫画家の方が向いてるんじゃないかな、そのタッチは」
とサイゾウがいう。
「今日は絵のタッチについて話をしたいわけじゃないの」
マイカが眉間に皺をよせて二人の男に注意する。
「メンバー構成はAさんとBさんとCさんとDさん。Aさんがリーダーで他の三人は各業務の担当者ってとこか。誰も建設的な意見を出さないってことは、それぞれの本来の仕事が忙しすぎて新しいビジネスプロセスなんて考えてる余裕はないってとこだな」
ボスはそういうと、僕の方を見た。僕は肩をすくめる。ボスの言うとおりだということだ。
「マイカのところの問題はだいたいわかった。まあリーダーに働きかけるしかないな」
「ずっと働きかけてますよーだ」
マイカがプクリとほほを膨らませる。
「でも何か今ひとつピントがずれてるのよね。私の言葉が言葉として正しく相手に伝わっていないような気がするの。Do You Understand?っていつでも確認したくなっちゃう」
「言葉だけでは話の本質的な部分を伝えるのは難しいのかもしれない」
僕はいった。
「だから漫画を描いて説明したらいいんだよ」
ケイジとサイゾウが同時にいった。そして顔を見合わせて笑った。
「漫画はともかく、ビジュアルな資料を作ってもう一回最初からプレゼンをし直したらいいんじゃないかな?言葉だけじゃなくってさ」
「わかったわ。ビューティフルな資料を作ればいいんでしょ。ケイジも手伝ってね」
「なんでオレが?」
「だってケイジは今、一番暇そうなんだもん。ナオもサイゾウも<三匹のカエル作戦>でヘトヘトなのよ」
「了解。とりあえずインクとペンとベタ塗り用のスクリーン・トーンでも買ってこようか?」
「だから漫画を描くんじゃないんだってば」
マイカがまたプクリとほほをふくらませた。

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