OP/イシュー
熱帯楽園ビル。
僕とサイゾウとマイカが上昇するエレベータの中で何も言わずに立っている。エレベータの中には僕たちの他にも人が乗っている。僕たちと同じようにクライアントのオフィスに向かう人。そしてクライアント自身だ。そうした場所はいわば公共の場所であり、仲間内といってもこの狭い空間の中で会話を交わすことは、他の人々にとっては電車の中で携帯電話で話をする人と同じくらいに迷惑なことだ。と考えているところで僕の携帯電話がブルルと震えた。僕は電話のディスプレイに映っている相手の名前を見た。ボスだった。ボスならしばらく待たせておいても問題はない。エレベータが26階につき、僕たちはエレベータを出た。青空が見える窓の側で僕は電話を繋いだ。
「遅い!」
というボスの第一声が聞こえた。
「気がつかなかったので」
僕は適当なことをいった。
「今日はクライアントとの打ちあわせだったな」
「そう。イシュー・ミーティング」
「イシューか。それが終わったら時間あるか?」
「時間は誰にでも公平にある」
「じゃあいっしょに昼飯を食べよう。話したいことがある。」
「サイゾウとマイカは?」
「できれば個人的に話しがしたい」
「了解」
僕は電話を切って2603と書かれた部屋に入った。
サイゾウとマイカはもう席についている。
パソコンの中の資料がプロジェクターを通してスクリーンに映し出されている。
真ん中に「イシュー」と書かれた丸い図形があり、その周囲にいくつかの四角い箱が展開している。四角い箱の中にはそれぞれのイシューの内容が書かれている。イシューとはISSUEのことだ。問題点、論点、争点、課題、議題などの意味があるが、この世界での使い方は「解決すべき課題」である。「課題」の中にも今すぐ解決すべきもの、時間をおいて解決すべきもの、解決する必要のないものがある。それらの全ての課題を抽出し、その中から「解決すべき課題」をイシューとしてさらに選別し、プロジェクト・メンバーの中で共有して検討する。プロジェクトでは必ずイシューが発生する。イシューが発生しないプロジェクトは「問題がない安定したプロジェクト」であることを意味しているのではない。イシューが見えないほど、誰も何もわかっていないことを意味している。それはとても危険なことだ。
ディスプレイに映し出されたイシューを見て、サイゾウがいう。
「毎週毎週ほんとうに問題が出てくるものだな」
「ちゃんとコントロールされている証拠だよ」
「あっ、あれ私の担当部分だわ。気がつかなかったなあ」
とマイカが眉間に皺を寄せた。