OP/普通について
『ひとつの場所で暮らしていると、最初は良くてもしばらくすると、ふいにどこかに出かけていきたくなる』
という僕自身の言葉について僕は考えた。
それは今までの僕の生き方そのものだった。ひとつの場所にじっとしていると段々と自分の中で退屈な気分が蓄積していく。それは例えば仕事が忙しくなり「退屈」なんて言葉を使うことがはばかられる場合においても同じである。その退屈さはどうしようもなく蓄積していく。雪国に降り積もる雪のようにゆっくりとゆっくりと、そして確実に。
ひとりでいるとき。天井を見上げていると、天井の白い壁の中に飲み込まれていきそうになる。そこに一人の友達の顔がふっと浮かぶ。それは中学生の頃の親友だった。彼は僕に向かってこんなことをいっていた。
「おれは普通に高校に行き、普通に大学に行き、普通のサラリーマンか公務員になるんだ」
「普通って何だよ」
「普通は普通さ。それ以上でもそれ以下でもない。英語でいえばSo soってやつだよ」
「So soねえ。それでお前は愉しいのか?」
「愉しいことなんか何もないさ」
といって彼は乾いた笑い声で笑った。
「愉しいことが何もないのに生きている意味があるんだろうか?」
「おれの話を最後まで聞けよ。おれは普通のサラリーマンか公務員になる。そして30になったら死ぬだろう」
「それは自殺するってこと?」
友人はニヤリと笑って首を振る。
「自殺するかどうかはわからない。でもそんな風に普通に生きてきた人間は30以上長生きしても仕方がないと思うんだ。癌になって死ぬかもしれないし、交通事故に巻き込まれて死ぬかもしれない。寝ている間に女に首を切られるかもしれないし、もちろんビルの屋上から飛び降りるという選択肢もある」
「でも30以上生きてしまったら?」
「それはもう僕じゃなくてきっと別の人間なんだと思う」
彼はそういうと寂しそうに笑った。
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