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Saturday, January 27, 2007

OP/普通について

『ひとつの場所で暮らしていると、最初は良くてもしばらくすると、ふいにどこかに出かけていきたくなる』
という僕自身の言葉について僕は考えた。
それは今までの僕の生き方そのものだった。ひとつの場所にじっとしていると段々と自分の中で退屈な気分が蓄積していく。それは例えば仕事が忙しくなり「退屈」なんて言葉を使うことがはばかられる場合においても同じである。その退屈さはどうしようもなく蓄積していく。雪国に降り積もる雪のようにゆっくりとゆっくりと、そして確実に。

ひとりでいるとき。天井を見上げていると、天井の白い壁の中に飲み込まれていきそうになる。そこに一人の友達の顔がふっと浮かぶ。それは中学生の頃の親友だった。彼は僕に向かってこんなことをいっていた。
「おれは普通に高校に行き、普通に大学に行き、普通のサラリーマンか公務員になるんだ」
「普通って何だよ」
「普通は普通さ。それ以上でもそれ以下でもない。英語でいえばSo soってやつだよ」
「So soねえ。それでお前は愉しいのか?」
「愉しいことなんか何もないさ」
といって彼は乾いた笑い声で笑った。
「愉しいことが何もないのに生きている意味があるんだろうか?」
「おれの話を最後まで聞けよ。おれは普通のサラリーマンか公務員になる。そして30になったら死ぬだろう」
「それは自殺するってこと?」
友人はニヤリと笑って首を振る。
「自殺するかどうかはわからない。でもそんな風に普通に生きてきた人間は30以上長生きしても仕方がないと思うんだ。癌になって死ぬかもしれないし、交通事故に巻き込まれて死ぬかもしれない。寝ている間に女に首を切られるかもしれないし、もちろんビルの屋上から飛び降りるという選択肢もある」
「でも30以上生きてしまったら?」
「それはもう僕じゃなくてきっと別の人間なんだと思う」
彼はそういうと寂しそうに笑った。

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Saturday, January 20, 2007

OP/放浪癖

ボスの眉間に皺がよるのが見えた。皺と皺の間に「それは何だ?」という言葉が浮かんでいる。
「60日後、プロジェクトが完了したら僕はこの場所を離れたい」
と僕はいった。
「もうこの小さなワンルームの部屋で俺たちと仕事をするのは嫌だということかな」
「みんなと仕事をするのは楽しいし、ワンルームだろうがちゃんとしたオフィスだろうが僕には問題じゃない」
「じゃあ何でこの場所を離れたい?」
「離れちゃ駄目かな?」
と僕は反対にボスに聞いた。
ボスは首を左右に振って、
「この場所に居続けなければならない理由なんてないさ。ただこの場所は俺が作った場所だ。そしてお前は俺が仲間として認めてこの場所に招いた人間だ。招待客がどこかに行こうとしている時にその理由を聞きたくなるのは招いたものとしての当然の権利だと思うがな」
「この仕事は僕にとってはとてもおもしろい。やりがいもある。報酬もまあ良いほうだと思う。時間的にもけっこう自由だ。人間関係もすこぶる良好ときている」
と僕はいった。ボスは黙って聞いている。
「でも昔からひとつの場所で暮らしていると、しばらくすると、ふいにどこかに出かけていきたくなるんだ」
「それは放浪癖ってやつか?」
「そうかもしれない」
「放浪癖なら仕方がない。それは一種の病気だ。俺は医者ではないから何の役にも立てそうにない」
といってボスは煙草を口にくわえようとした。
「この部屋は禁煙ですよ」
と僕はいった。
ボスはそのまま煙草を口にくわえてイスから立ち上がると部屋の外へ出て行った。

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Sunday, January 14, 2007

OP/本質的な問題

 小さなワンルームの部屋。
この場所は仕事部屋であると同時に会議室でもある。
大きな会社のようにオフィスと会議室がきっちりとわかれている場合もあるが、この小さな会社ではすべてがワンルームの小さな部屋の中で行われる。

 ボスは僕の端末のディスプレイに表示されている進捗管理表を見ながら口を開いた。
「プロジェクトを進めて行く上で大切なことが何か覚えているか?」
「時間とコストそれから人」
と僕はその質問に答える。僕にとってそれはもう何度もボスから聞いている質問だった。ボスはいつでもこの質問を僕たちに投げかけ、本質的な問題の有無を確認しようとする。
「今回のプロジェクトが始まって今日で何日たつ?」
僕は手帳に書かれた数字を見る。
今回のプロジェクトが始まった日から1,2,3,4,5・・・・・・と日数を刻んでいるのだ。今日の日付のところには30という数字が書かれていた。
「30日」と僕はボスにいった。
「ということはあと60日で今回のプロジェクトを完了させるわけだ」
「特に問題がなければ」
「何か気になることがあるのか?」

僕は頭の中で何人かの顔を思い浮かべる。
プロジェクトを進行させるのは僕たち技術屋とその技術を使って日々の仕事をしていくクライアントである。
僕たちだけではプロジェクトを目的の場所に無事に着陸させることはできない。クライアントとともに考え、行動指針を決定して、ひとつひとつの具体的な行動計画を作り、実行していく必要がある。すべてはクライアントのために行われなければならない。クライアントが望まないシステムを作ってしまうことは自分自身の無能力を作られたものによって証明するようなものである。
だから、もしも僕とクライアントとの間で意見がまとまらないような状況が生じた場合、その溝を埋めるために多くの時間を費やすことになる。時間は金だ。時間がかかるということは、計画通りに仕事を進めることができないことを意味する。計画通りに仕事を進めることができないということは、それだけ余分に金がかかってしまうことになる。そこでコストを削減するために人を無理して働かせようとすると、人によっては壊れてしまい結果としてその人が作った製品のクオリティが低い状態になってしまうこともある。そうなってしまった場合、人も製品も幸福になることはない。
僕はそうしたことを考えながらこれまでに不幸になっていった様々な人とモノについて考えた。
 そしてボスの目を見ていった。
「今は大丈夫。プロジェクトは予定通りに進んでいる。マイカもサイゾウも目的意識をしっかりもって自分が今何をすべきかをちゃんと把握している。クライアントの中にはまだ目的地についての具体的なビジョンが見えていなくて、時々反応がスルーしている人もいるけれども、それはいつものことだから問題はない。いっしょに仕事を進めていく中でだんだんとビジョンが明確になってくる」
ボスはニコリと微笑む。
「なるほど。今のところは大丈夫のようだな」
「そう、今のところは大丈夫。でもひとつ言っておかなければならないことがある」
と僕はいった。

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