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Wednesday, February 01, 2006

OP/魔法の鏡

 水曜日の午前中は皆9時にオフィスにやってくる。いつもは10時を過ぎてもやってこないサイゾウやマイカも水曜日の朝だけは必ず9時にやってくる。水曜日の朝はミーティングがあるのだ。ボスはこの水曜日のミーティングをとても大切に思っている。他の予定については少々遅れようが何も言わない。けれども水曜日の朝のミーティングに誰かが遅れることがあった場合はボスがキングコングのように暴れ回る姿を見ることができる。それはそれでたまに見たくなるのだが。

「さてどこから話そうか?」とボスがいう。
「先週は<三匹のカエル>の下調べをした。<三匹のカエル>とはそれぞれSCIことソリッド・コミュニケーション・インクが持つ三つの子会社のことを意味している。今回のプロジェクトの最終目標はこの<三匹のカエル>とカエルたちが住んでいる<池>であるSCIの現状の姿を描き、更に将来の姿を描くことにある。下調べをした結果はサーバーの中のフォルダA-1に格納済み」
と僕が現状について簡単に説明する。
ボスはうなずくとマイカに向かっていう。
「マイカ。この仕事をすることによって利益を得るのは誰だ?」
「私たち。いい仕事ができればお客さんからガッポリ報酬を頂けるから」
ボスが苦笑いする。
「まあ、それはそうだしそうでなきゃならんわけだが、それは結果であってその前に客であるSCIが俺たちに期待しているゴールは何だってことを聞いてるんだ」
「それならもっと簡単な話。魔法の鏡が欲しいのよ。きれいな人は誰かにきれいだと言われてはじめて自分がきれいなんだということを認識することができるでしょ。鏡に映る自分を見てきれいだなーと思う人もいると思うけど、それよりも誰か第三者にきれいだと言われたときに人ははじめて自分のことをきれいであると思えるの。おとぎ話の悪い魔女が魔法の鏡の虜になってしまったように、鏡が絶えず自分のあるべき姿を囁いてくれたら、それだけでいつでも元気になれるんじゃないかしら。私たちが描いている絵はそんな誰かにとっての魔法の鏡となるものだと思う」
ボスの苦笑いが微笑みに変わる。
「魔法の鏡か。ふん、なかなかいいな。じゃあその鏡はいつでもその鏡を見る人にとって都合のいいことばかり言えばいいのか?」
そのボスの言葉を聴いてマイカが眉間に皺を寄せる。

今度はサイゾウが口を開く。
「魔法の鏡の重要な役割は真の姿を明確にすることだ。マイカの言葉を借りれば、きれいな姉ちゃんが自分のことをきれいだと思うためには、第三者の評価が必要だ。でもきれいということは実は無数の要素を含んでいる。その無数の要素を単純に二つに分けると、<表面的なきれいさ>と<内面的なきれいさ>ということがいれるだろう。そういう表面的なものと内面的なものの両方を映すことができる鏡が魔法の鏡じゃないか?」
ボスが口の中でぶつぶつと何かをつぶやく。ボスはそんな風にしてマイカとサイゾウの言った言葉を一つ一つ検証しているのだ。
「SCIがもしお前たちの仕事の結果、その魔法の鏡を手に入れて、自分の真の姿を確認することができたとして、SCIはそれによって利益を得るんだろうか?」

ボスのその質問に僕が答える
「利益というのもやっぱり結果だよ。SCIの究極の目的は業績を向上させること、利益を上げることだろうけど、その前に自分自身が利益を上げることができる要素を持っているかどうかをちゃんと知る必要があるじゃないだろうか。魔法の鏡があれば、その最初の第一歩を踏み出すことができる」
ボスがニヤリと笑う。
「OK。じゃあその魔法の鏡が出来上がるのを楽しみに待つこととしよう。『はじまりの朝』の成果物は出来てるんだろう?」
とボスはケイジの方を見る。
「昨日4人でチェックした。2、3追加する絵があったけどほぼ完成している。次のフェーズに進んでもいいよ」
「次のフェーズは何だ?」
とボスが僕に聞く。
僕は机の上にカードを置く。そのカードには『天使と悪魔』と記されている。
「じゃあ私は天使の方を担当するわね」とマイカ。
「しゃーないなー。じゃあオレは悪魔と仲良くするか」とサイゾウ。
「残念ながら僕たちはそれぞれ<三匹のカエル>の腹の中に入ることになる。だからマイカも僕もサイゾウも、それぞれのカエルの腹の中にいる天使と悪魔に出会うことになる」
「Oh My God」といってマイカが唇を噛んだ。
「それって日本語に訳すとどうなるの?」
と僕は聞いた。
「『そーゆーとおもったよ』ってゆーんだろ」
とマイカの代わりにサイゾウがいった。

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